乳幼児に心を開かせるテクニック『アイコンタクト』

No.55更新日付:2025年2月6日

「目は口ほどにモノを言い」や「目を見て話しましょう」などの言葉からもわかるように、目はコミュニケーションにとって非常に重要な要素です。それは、小さい子どもにとっても同様で、目を使ったコミュニケーションを覚えると、子どもは相手と打ち解けて仲良くなる経験をより深めることができるようになります。

ここでは、目を使ったコミュニケーション「アイコンタクト」の実践方法や、アイコンタクトのもたらす効果についてご説明していきます。

子どもを安心させるアイコンタクト

人見知りができるまで発達が進んだ赤ちゃんは、自分にとって「親しくない相手」が個体距離に入ると警戒を始めます。これはあくまで赤ちゃんにとって親しくない分類に入る相手という意味です。生まれた時から何回も抱っこしてもらっているお爺ちゃん・お婆ちゃんは大人の感覚では「非常に親しい相手」ですが、日常的に一緒に暮らしていなければ赤ちゃんにとっては「親しくない相手」に分類されてしまうことが多いです。

仕事で忙しいお父さんも、休みの日にたくさんスキンシップをするなど意識的に赤ちゃんと関わる時間を作らなければ、「親しくない相手」として泣かれてしまう場合もあります。けれども赤ちゃんはお父さんが嫌いなわけではありません。

「親しくない相手」でも泣かれないアプローチ方法

ここからは「親しくない相手」でも泣かれることのないような正しいアプローチ方法を説明します。

まず、赤ちゃんは見知らぬ相手でも個体距離に入るまでは気にしません。『個体距離遠方相』(手を伸ばしても子どもに届かない距離)の中に入ると警戒を始めます。警戒対象の相手をジッと見つめ、そして相手が自分を見ると目を逸らします。

この時にいきなり『近接相』へ侵入するとまず赤ちゃんは泣きだすでしょう。小さい子どもと親しくなろうとする時、好意や友好的態度をアピールしようと大きな声と大げさな身振りで「こんにちは~!お名前は?良い子だね~!」と強引に近づく方がいらっしゃいますが、これは良いアプローチ方法とは言えません。その子がすでにそういうタイプの大人に慣れていれば問題ありませんが、ほとんどの場合は警戒心を煽ってしまいます。

その場合でも、子どもが意表を突かれ驚いて思考が停止しているような状態の間に、いないいないばぁなど子どもの喜ぶ遊びを次々と繰り出せば、半数くらいは泣かないでしょう。しかし対人経験が少ない子どもだと他人への警戒心が強まり、それまでは近接相では泣かなかった子どもが、他人が個体距離遠方相に入っただけで泣くようになってしまうなど、社会性の成長発達を遅らせる場合もあります。

乳幼児など社会経験が少ない相手と心をつなぐ時には、ファーストアプローチは静かに穏やかに始める方が良いと考えられています。アイコンタクトは、まさにそのようなニーズにかなったアプローチの方法です。

乳幼児の心を開かせるアイコンタクトの方法

この方法を身に付けると、子どもの愛着をより強く作り上げることができます。両親への愛着と信頼がしっかり育っている子どもは、親の愛情を疑うことがないので、小学生以降反抗期に厳しく叱りつけてしまうことがあったとしても大丈夫です。しかし、愛着と信頼が揺らいでいる子どもを厳しく叱ると「自分の事が嫌いなんだ」と心を閉ざして、悩みを相談してくれなくなり、学校や友人関係のトラブルが生じている時にも発見が遅れるという事態を招く恐れがあります。

具体的な方法と手順【①~⑦】

さて、実際にはシチュエーションや子どもに合わせてこちらの対応も柔軟に変化させる必要がありますが、その中でも共通する事柄をまとめます。わが子とはすでに密接距離まで許せる人間関係ができているので、まずは初対面の小さい子どもと親しくなろうとする場面をイメージします。その方が難易度が高いので、このテクニックを身に付けてしまえばわが子相手ならいくらでも応用がききます。

①『個体距離遠方相』(手を伸ばしても子どもに届かない距離)から、慈愛に満ちた笑顔で見つめます。この時に自分の体は動かしません。目と表情だけで敵意がないこと、好意を抱いていることを伝えます。アイコンタクトは言葉を用いない不言語コミュニケーションとして非常に優れた方法の一つと考えられています。

②子どもがこちらをジッと見つめてきたら、今度は口角を上げて、目も細めて、もっとハッキリとした笑顔に切り替えます。まだ口は開けません。

③子どもが更にこちらを注視する、意識的によく見ようとしていたら、笑顔をもっと大きくします。口を上の前歯が8本程度見え、下の歯は見えない程度に開けます。目は先ほどより少しだけ見開く程度に大きくします。この段階まで辿り着くと、もう子どもの警戒心はかなり解かれているのですが、まだ『個体距離近接相』に入るには最後の壁が残っています。

④子どもはいったん顔をそむけます。この時に、もう興味が失われたのかと思ってアプローチをやめてしまえば関係はゼロに戻ってしまいます。子どもが顔をそむけてもまだ見ていてください。無理に笑顔を作っていると疲れますから普通の表情で大丈夫です。

⑤すると子どもはチラっとこちらを見ますから、また笑顔で子どもの目を見つめます。また子どもは顔をそむけ、そしてまたこちらを伺うように見ます。

⑥何度かそれを繰り返し、明らかにこちらを意識するようになったら、子どもが顔をそむけたタイミングに合わせてこちらも少し顔をそむけます。そうは言っても子どもの様子を伺いつつ、子どもがこちらを向くタイミングで子どもを見ます。つまり顔を逸らしたり互いを見たり、という動きを同調させるのです。

⑦この遊びに明らかに子どもがのってきたと感じたら、子どもの顔を見る度に意識的に表情を変えます。目を細めたり見開いたり、口を開けたり閉じたり、唇を突き出したり、やや大げさに表情を変えて百面相遊びに誘導します。子どもはもうすっかり笑顔になっているでしょう。個体距離近接相に入ることを許され、子どもの手や頭、頬などにそっと優しく触れることを許容してくれるようになったのです。あとは親しい子どもをあやす遊びを続けて行うだけで、密接距離の侵入を許してくれるようになります。

公園などでこの方法を使って、相手と打ち解ける経験を与えよう

このテクニックを磨く一番良い方法は、わが子と地区センターや公園などに出かけて、近い年頃の子どもたちに親が実践してみることです。その子どもたちは「自分と遊んでくれる好意的な大人」と判断し、積極的にかまってもらおうとし始めます。ですので、こちらも積極的に一緒に遊びます。これは、わが子に「初対面の相手と親しくなって、楽しく過ごす」という手本を見せる大変良い方法の一つです。

そして、わが子がかまってもらいたい様子を見せたら遊びの輪に入れます。このように、初対面の相手とすぐに打ち解ける経験を数多く与えられた子どもは、クラス替えなど新しい環境の変化がある時でも、すぐに新しい仲間と打ち解けられる優れた社会性を身に付けるといわれています。

初対面の子どもたちとわが子を対等に扱う重要性

初対面の子どもたちとわが子を交えて共に遊ぶときの注意点は、どちらの子どもも対等に扱うことです。謙譲の美徳を重んじる日本人には、よそのお子さまを優先し、自分の子どもに我慢をさせがちなところがありますが、これはわが子の心に「私のことがそんなに大切じゃないんだ」という重大な誤解、望ましくない感情を生み出す場合があります。

当然、親にはそんな気持ちなど微塵もなく、わが子を愛している強い自覚がありますし、毎日たくさん「可愛い」「大好き」などと伝えているのだから、まさかわが子がそんな事を考えているとは夢にも思わないものです。

しかし、小さな子どもには謙遜という言葉の意味も必要性も理解できず、親の言葉をそのまま受け止めてしまいます。この「私のことがそんなに大切じゃないんだ」という気持ちが積もってくると、ある子は親の言葉を素直に聞かず、何に対しても反抗的になり、またある子は親に気に入られようと、自分の本心を押し殺して親の望む良い子でいようと努めます。そのうちに本当の自分の気持ちや感情に向き合うことが苦手になり、精神的な疾患の芽が生じる危険を招きます。

相手に譲ることは親が遊びの中で自然に見せる

「自分が我慢して相手に譲る」という尊い行いは、3歳未満の間は説明や解説はせず、ただ親が遊びの中で自然に見せ続けることで手本となればよいのです。いずれわが子の知能年齢が4~5歳相当になってきたら、改めて自分は我慢して相手に譲るという行動を教えることも課題にしていきます。

ママ友達と協力して、わが子のコミュニケーション能力を発達させよう

「初対面の小さい子どもと親しくなるテクニック」は、最初から密接距離にあるわが子には直接使うことはできません。同居していないお爺ちゃんやお婆ちゃんに協力してもらうのが一つの方法です。テクニックを練習してもらい、人見知りで泣いてしまう時期の孫と心をつなぐ遊びに挑戦してもらうのです。

また、ママ友達も最大の味方になります。互いの子どもたちに対し、アイコンタクトで心の距離を縮める練習をすることで、子どもたちにとっては社会性を伸ばす素晴らしい経験になり、ママにとってもアイコンタクトをコントロールするレッスンになります。

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