「小競り合い」の経験がいじめを防ぐ~3歳以降の子どもの社会性の育て方~

No.189更新日付:2024年12月10日

子どもが3歳くらいまで成長すると公園でのお友達との遊びに加えて、幼稚園や保育園などで多くの同年代の子どもや大人の方と関わる機会が増えてきます。そうなると、子どもどうしでけんかが起きたり、おもちゃの取り合いになったりと、親としては子どもがちゃんと社会性を持てるようになるのか心配になるシーンが出てくると思います。

しかし、そのような心配は必要ありません。子どもにとって幼児期のけんかや小競り合いというのは、その後の人間関係を構築していくにあたって非常に重要な経験なのです。

このコラムでは特に3歳以降の幼児期の子どもの社会性を育てていくにあたって必要な親の心構えと、子どもの対人トラブルから見える発達段階について説明していきます。読んでいただき、子どもの成長への心配から解放されると幸いです。

幼児期の行動は「いじめ」ではない

0~3歳の幼児期の子どもの社会性の発達については、コラムNo.67「子どもの社会性を育てるために幼児期にできること」で主に説明いたしました。今回は主に3歳からの子ども社会性が育つ道すじを見ていきます。

まず、冒頭でもお話した幼児期にさけられないけんかや小競り合いを心配するお母さんも多いと思いますが、「幼児期にはいじめは存在しない」と言ってよいでしょう。

幼児が「伝達力の未熟さ」「他者認識の未熟さ」などのために引き起こす「友達とのトラブル」はいじめと捉えるべきではありません。

幼児期の友達トラブルが生じるのは次の能力が非常に未発達だからです。

・相手の立場で考えることがまだできない
・自分の気持ちをうまく伝えることができない
・相手の言うことを正しく理解できない
・遊びの仕方やルールを十分に理解できていない
・相手との力関係が気になり、優位に立ちたい気持ちが強い

幼児期の人間関係のトラブルを通して子どもは成長する

幼児期に小さな小競り合いを通して人間関係のトラブルをしっかりと経験することで、どういうことに気を付けないとどのようなトラブルが起こりやすいかを肌で学んでいきます。

自分の気持ちを相手に伝えるにはどうしたらいいのか、自分はよくても相手が困るのはどういう時か、どういう時に悲しい気持ちになるのか。そういうトラブル経験を何回もくり返す中で、互いの主張を押し通すだけではなく、お互い納得できる解決策を考え出すスキルも発達していくのです。

つまり幼児期の対人トラブルは、正しい社会性発達のために必要な経験すべき学びなのです。

痛みが小さく幼い時期に、人間関係のありがちなトラブルパターンを複数経験しておくことが、成長後に大きな痛みを事前回避できる能力へとつながっていきます。

対人トラブルの発達段階を知っておこう

成長にともなって生じがちなトラブルを知っておけば、心配や不安を感じません。心配する代わりに「ああ今、子どもたちはこの時期に差しかかっているのね。適切な支援をしてあげよう。」と考えましょう。

1.相手をたたく・押すなど乱暴な行動

「嫌だ、近くにこないで」という意志表示のために、相手を押したりたたいてしまったりという行動が見られます。この段階の子どもに理屈は通じないので、保護者が代わりに相手に配慮しながら、上手に子どもを遠ざけてあげましょう。大声を出す、噛む、物を投げるというのも大体このパターンです。

「乱暴な行動によって不快なものを遠ざけることに成功した」という経験を与えず、ポジティブな行動によって心地よさが得られる経験に変換しましょう。

2.横取り・横入り

この時期の子どもは「自分と違う他人の視点」について、実はまったく理解できていないに等しいのです。そのため「相手の気持ちを無視して、自分の欲求を満たす」パターンがよく登場します。横取りや横入りはほとんどこのケースです。

まずは横入りや横取りをした子に言葉で説明しましょう。説明しても聞き分けられないならば、まだ理解できるところまで知能発達が進んでいないと考えて怒らないようにしましょう。

3.さらに知能発達が進むと「悪ふざけ」が見られるようになる

好きな相手にかまって欲しいのにそれをうまく伝えられない時や、遊ぼうと言っても忙しくて遊んでくれないお母さんにかまって欲しい時など、悪いことをすればお母さんは困った顔をしながらも自分に関わってくれると思ってしまいます。お母さんの困った顔は自分を意識してくれた証拠なので見るのが嬉しいのです。

4.「支配―被支配の関係」を経験する

相手と自分との力量差を適切に感じ取り、集団の中で自分が果たすべき役割に気づくという重要な能力を育てるために必要な経験です。

5.小学3~5年生くらいの間に「プレ・いじめ」といえるトラブルが起こりがち

小学校3年生くらいになると、精神的な成長の早い子の中でいじめとはいえないものの、一見していじめに見えるようなトラブルが発生してきます。

人間関係が広がっていくにつれて「嫉妬」や「羨望」の感情が心に複雑な影響を与えるためプレ・いじめは「なんとなく気に入らない」という感情から始まります。

・仲のよかった友達が他の子と仲良くしていた
・好きな先生からいつも褒められている子がいる
・自分がもらえると思っていた賞を他の子が取った
・あの子ばかりが得をしているように見える

そういった「相手を妬ましく思う気持ち」が「なんとなく気に入らない」「あの子は嫌い」という感情を生み出します。嫉妬・羨望の他にも「自分より下にみている相手が、対等の口をきいてくる。生意気だ。」と感じた時にも同様のケースが生じがちです。

以上、ここまではいじめではなく「感情のぶつかり合い」「意見や考え方の衝突」が激しくなったものにすぎません。「感情をコントロールし、理知的に解決の道を探す」という方法で、互いの人間的な成長を得ることができます。

危険な状態が発生するのは次の段階です。

6.「相手の困る顔を見るのが面白い」のがいじめの始まり

人間の脳には「嫌いな相手が不幸になると快感を感じるホルモンを分泌する仕組み」があります。プレ・いじめの段階では「相手が悪い!」と思って取っていた行動ですが、次第に「相手の困る顔を見るのが面白い」という感情が発生してくる子も現れます。

これこそが「あってはならない、本当のいじめ」の境界線です。

論理的かつ社会性が発達している子は「嫌だと感じた相手の行動にも、こういった理由があったのだ」「その子の行動は嫌だったけれども、その子自体を嫌いなわけじゃないよ」と考え、相手自体を嫌わないのでいじめのトラブルに巻き込まれにくいです。

そういう考え方ができる子どもに育つように、幼い頃から対人経験の機会を数多く与えてあげましょう。

まとめ:幼児期のうちに対人トラブルを経験させておこう

いかがでしたでしょうか?

つい親としては心配して止めてしまいがちなお友達との対人トラブルですが、適切な時期に経験しておくことが子どもの社会性の健全な発達に重要であることがおわかりいただけたかと思います。

現代はつい他人の目線を気にして、この対人トラブルを回避させてしまう傾向が多くなったように感じられます。知らない子どもとの対人トラブルがどうしても心配ならば、同じ保育園の親同士で仲良くなってお互いに理解しあったうえで、子どもがけんかをした時に無理に回避させないようにするのも有効です。理解しあえるママ友を持つことも、子どもの成長のためには重要といえるのかもしれませんね。

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